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テーブルの真ん中

miisuke08.exblog.jp

カムサハムニダ

出張先で、聞きなれない
コンビニに立ち寄りました。

トイレに向かうと
「すみません、どうぞ」
と言って、掃除道具を抱えた男性が
出てきました。
障害者だと見てわかりました。

トイレを終え、周りを見渡すと
外では障害者の女性が
掃き掃除をしていました。

積極的に障害者雇用をしている
地域のコンビニなのだろうと感心しました。
トイレだけのつもりでしたが、
タバコを3箱買いました。

「あのお、ヒデさんですか?」
小さな女性の声が聞こえてきました。
無防備だったので、誰の声か
すぐには分りませんでした。

「ヒ、ヒデさん?」
声の主は、レジ打ちの50代の女性でした。
「ええ、そうですけど……。あっ、
花を摘んでいたお母さんですね!!
K君のお母さんですよね!!!」


※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※


バスの車中、K君はずっと
胸を叩いていました。
極度の緊張からくる行為だと
お母さんが話してくれました。
K君は向かう先で、
あいさつをすることになっていました。

9年前。韓国の慶州市。
福井の障害者と慶州市の障害者の
美術交流展がありました。
僕は、縁あってそのイベントに
同行していました。

イベントを終え、
バスが向かう先には
韓国の障害者やその保護者、
学校の先生たちが待っていました。
いわゆる打ち上げです。

高校生のK君は
養護学校の代表として
お母さんと一緒に
慶州市に来ていました。


※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※


打ち上げのレストランには
日韓の関係者約50人が集まりました。

「あ、あのお…」
K君は最初から言葉に詰まってしまいました。
そりゃあ、そうです。
僕らでも、これだけの人数の前で
あいさつするのは緊張します。

「あ、あ、あのお…」
それから1分ほど沈黙してしまいました。
K君の顔は真っ赤になり、
助けを求めるように、
お母さんに目をやりました。

養護学校の担任の先生が、
K君のかたわらに行きかけた時です。
慶州市の障害者の女の子が、
急に立ち上がり、K君のところに
歩いていきました。
そして優しく肩を
叩きました。

「きょうは、ぼくたちのために、
ほんとに、ありがとう」

K君は、勇気を振り絞るように
ゆっくりと声を出し、
そして頭を下げました。

つられるように、隣の女の子が
「カムサハムニダ(ありがとう)」
と小さな声を出し、
K君を真似て頭を下げました。

この女の子は自閉症で
人前で話をしたことがないと
彼女のお母さんが涙ながらに
教えてくれました。

会場のレストランは
とってもとっても大きな拍手に
包まれました。


※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※


旅は3泊4日。
初日のイベントを終えた後は
いろんな遺跡を巡りました。

K君を含め日本からやってきた3人の生徒は
ずっと楽しそうでした。
きっと肩の荷が下りたからでしょう。
それを見つめる親たちもまた、
とても幸せそうに見えました。

K君のお母さんは
「飛行機も初めてやし、
あいさつもあるし、
最初は断ろうと思ってたけど、
連れてきて本当に良かった」
と何度も何度も口にしました。

そして、行く先々で彼女は
道端に咲く小さな花を摘んでいました。
それを小さなビニール袋に詰めるのです。
理由を聞くと
「この旅を忘れたくないから。
何か青臭いかしら」
と言ってハハハと笑いました。


※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※


タバコのお金を支払うと
レジのお母さんは
おもむろに、エプロンの前ポケットに
手を入れました。

手のひらには
ラミネート加工した押し花がありました。
「ずっと持っているの。
あんなに楽しい旅はなかったから」

僕の後ろには、
のり弁当を持ったドカタのあんちゃんが
待っていました。

「みんな元気ですか?」
「えーみんな元気ですよ、ヒデさん」
「よかったです」
「ありがとう」
そう言って、
お母さんは、小さな真っ赤な花を
ポケットに押し込みました。

「いらっしゃいませ。
お弁当はあたためますか?」

僕は、込みあげる
涙を見られないように
そそくさとコンビニを
後にしました。


※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※


旅の最終日。
通訳の女性が、空港の駐車場で
3人の生徒に
韓国のりをプレゼントしました。

「みなさんにはとってもたくさんの
勇気をもらいました。
本当にありがとうございました」
そういって一人ひとりに韓国のりを
手渡しました。
女性は若く、感受性も豊かだったのでしょう。
人目をはばからず号泣していました。

プレゼントを手にしたK君は
とってもうれしそうでした。
そして何かを言おうとしていました。
「あ、あのお、あのお…」
ほんのしばらくの沈黙の後、
K君は、小さな声で
「カム、サ…ハム…ニ…ダ…」

K君が初めて口にした韓国語でした。
Commented by まこりん at 2013-01-07 13:47 x
miisukeさん ヒデさん、

明けましておめでとうございます!

今年は思わぬウイルス感染で、寝正月されたようですが、
元気回復され、健やかな日々を過ごされますようお祈りします。

こーちゃんもずんずん成長でされて頼もしいですね!
今年はぜひお会いしたいと思っています。

Commented by tsukinoniji at 2013-01-08 14:39
ヒデさん、明けましておめでとうございます。
素敵なエピソードですね(泣)
新年早々、ほっこりしました。ありがとうございます!
私も今年1年、感謝の気持ちを忘れずに過ごしたいです。
Commented by miisuke1018 at 2013-01-08 20:34
まこりんさん、
明けましておめでというございます!

まさに寝正月でしたよ~^^;
来年は、家族が健康で新年を迎えられるよう健康に気を付けようと思っています。

コウ、元気にすくすくと成長していますよ♪
今年こそは、そちらに遊びに行きま~す♪

今年もどうぞよろしくお願いします!
Commented at 2013-01-11 01:48 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by miisuke1018 at 2013-01-12 20:53
tsukinonijiさん

明けましておめでとうございます。
返事遅れて申し訳ありません。
ほっこりしていただけてうれしいです。

我が家の子どももすくすく成長しております。
今年もまた必ず遊びに来てください。
かわいい娘さんとフレンチキスをさせてください。
Commented by miisuke1018 at 2013-01-12 21:02
01-11 01:48の鍵コメ様、
初めまして、miisukeです♪
コメント嬉しい限りです。
感動してもらえて、ヒデも喜んでいました。

鍵コメ様も、お料理やコーディネートが好きなのですね。
洋服は、ホント大好きであまり買えなくなりましたが^^
また、ぼちぼちとアップしたいと思っています。

これからもどうぞよろしくお願いします♪
by miisuke1018 | 2013-01-06 15:09 | Trackback | Comments(6)